VARIAN RT REPORT
2026年11月号
人にやさしいがん医療を放射線治療を中心に No.36
次世代の照射技法「RapidArc Dynamic」の使用経験
平岡 伸也(京都大学医学部附属病院放射線治療科)
はじめに
放射線治療は,高い局所制御能力を持つ強力な治療手段であり,がん治療における3大療法の1つとして標準治療の根幹を成している。放射線治療は2000年頃に登場した強度変調放射線治療(IMRT)により劇的な進歩を遂げた。IMRTは,強弱をつけた放射線を多方向から腫瘍に集中して照射することで正常組織の損傷を最小限に抑え,理想的な線量分布を可能にする技術である。二次元X線画像や三次元CT画像を用いた従来法と比較して,リスク臓器の毒性を軽減しつつ,標的病変へ線量を集中させて安全に線量増加を行うことが可能となった。多くの疾患においてIMRTによる治療成績の向上・毒性軽減が明らかとなり,がん治療における放射線治療の役割はいっそう強固なものとなっている。
しかし,単にIMRTと言っても,この20年でさらに高度な照射技術へと進化し続けている。その代表格が強度変調回転放射線治療(VMAT)である。VMATは,ガントリ回転速度,線量率,マルチリーフコリメータ(MLC)の移動を連続的に制御しながら照射する技術であり,線量分布の改善のみならず治療時間の大幅な短縮をもたらした。
今回,バリアン社において次世代の照射技法である「RapidArc Dynamic」が開発され,実臨床での運用が可能となった。本稿では,本邦においていち早くRapidArc Dynamicを実臨床へ導入した施設として,その技術的メリットおよび初期使用経験について解説する。
RapidArc Dynamicとは
RapidArc Dynamicは,バリアン社が開発した次世代照射技法であり,主に以下の3つの新技術で構成されている。
(1) VMATとIMRTが融合した 照射技術
従来のVMATではガントリを停止して照射することができず,特定の角度から強度変調を極端に強めることが困難であった。RapidArc Dynamicでは,任意のガントリ角度に固定門(Static Angle Modulated Ports:STAMP)を設定することが可能となり,さらなる線量分布の改善が期待できる。また,IMRTの重み付けも調整することが可能であり,照射時間短縮を優先するか,線量分布改善を重視するか,治療計画者が選ぶことが可能である。
(2) Dynamic Collimator Rotation
従来のVMATでは照射中のコリメータ回転は不可能であったが,RapidArc Dynamicではガントリ回転中にリアルタイムにコリメータを回転させることが可能となった(Dynamic Collimator Rotation)。ガントリ角度ごとにターゲット形状に合わせた最適なコリメータ角を自動検出して照射を行うことで,従来法と比して優れた線量集中性を実現し,リスク臓器の線量低減が期待される。
(3) 次世代最適化アルゴリズム
放射線治療計画システム「Eclipse」(バリアン社製)に搭載された次世代アルゴリズムにより,最適化計算能力が大幅に向上した。複雑な最適化計算に要する時間が従来よりも短縮され,RapidArc Dynamic特有の高度な照射技法にも対応している。さらに,従来では煩雑な作業が必要であった,VMATにおけるMLCの空中飛ばしを自動で設定する「Automatic Skin Flashツール」を搭載している。これらの機能は,従来に比べ簡潔に良好な線量分布を得るためのサポートを可能とした。
RapidArc Dynamicによる治療の実際
当院では,2026年1月より本邦初となるRapidArc Dynamicの実運用を開始し,これまでに多くの疾患に対して放射線治療を実施してきた。今回は,食道がんに対する実際の臨床事例を提示する。
本症例は,胸部中部食道がんcT3N2M1 stage ⅣB1)の患者で,根治的化学放射線療法を希望された。シスプラチン,5-FU併用化学放射線療法を実施する方針となった。しかし,原発巣が大きく心臓背側に接していること,下頸部から上腹部にかけて多発リンパ節転移を認めることから,従来のVMATによる治療計画では肺および心臓の線量増加が懸念され,許容値を超過する可能性が示唆された(図1)。そこで,リスク臓器の線量低減を目的に,RapidArc Dynamicを用いた治療計画を立案した。
食道がんのように計画標的体積(PTV)が頭尾方向に長い症例では,従来のVMATではMLC駆動範囲制限のために縦方向のMLC活用が困難であった。一方,RapidArc Dynamicでは,Dynamic Collimator Rotationおよびaperture設定によるアークごとの照射範囲制限を用いることで,強度変調能力を確保しつつ,縦方向のMLCを有効活用することが可能となる。本症例では,側方にavoidance sectorを設定した3arcを用い,側方からのbeam entryを抑制した。このうち2arcにはaperture制限を設定して可動範囲を最適化し,縦方向のMLCを最大限に活用した(図2)。
従来型のVMAT(RapidArc)の3arcとRapidArc Dynamicの線量比較を行ったところ,心臓平均線量は従来型の32.1Gyに対し,RapidArc Dynamicでは26.8Gyと5.3Gyの線量低減が得られた。肺線量についても,V20GyとV5Gyがそれぞれ,従来型で19.2%,68.1%,RapidArc Dynamicで17.0%,62.1%と,RapidArc Dynamicによるリスク臓器線量低減が確認された。PTV辺縁の線量勾配もRapidArc Dynamicの方が急峻であり,これはDynamic Collimator Rotationの効果が反映された結果と考えられる。また,見落としがちな喉頭線量についても良好な低減が得られていた(図3)。
品質保証(QA)はγ解析(3%,3mm)で99.1%と,非常に高い照射精度が得られていた。実計測によるbeam-on timeは237秒と臨床上許容範囲内であったため,RapidArc Dynamicによる治療を採用した。
化学放射線療法後,内視鏡検査にて確認したところ腫瘍は消失し,CT検査でも明らかな再発を認めず,現在経過観察中である(図4)。また,放射線肺臓炎などの重篤な合併症もなく,良好な経過が得られている。
図1 化学放射線療法前の上部内視鏡,FDG-PET/CT,造影CT所見
胸部中部食道がんcT3N2M1 stage ⅣB,多発リンパ節転移(#101, #104R, #112AoA, #1)を認めた。
図2 胸部中部食道がんに対して実際に使用したRapidArc Dynamic設定
各arcのbeam’s eye viewおよびSTAMP設定を示す。
図3 RapidArc Dynamicと従来型VMAT(RapidArc)の線量分布比較
○および↑で示す領域において,顕著な線量分布の差が認められる。
図4 化学放射線療法後の上部内視鏡,造影CT所見
原発巣は消失しており,造影CTにおいても明らかな再発,遺残所見は認められない。
おわりに
本稿では,次世代の照射技法であるRapidArc Dynamicの技術的概要と,当院における実臨床症例について紹介した。
IMRTの臨床導入から四半世紀が経過した現在も,放射線治療技術の進歩はきわめて目覚ましく,最新のRapidArc Dynamicの登場により,従来のVMATでは達成し得なかった高精度な線量分布の形成とリスク臓器への線量低減が可能となった。
今回はRapidArc Dynamicにより得られる線量分布改善を主目的としたが,ほかにも照射時間の短縮を主体としたRapidArc Dynamicの有効活用も期待される。さらに,最適化計算の高速化により,昨今増大する臨床業務の効率化への寄与が期待される。
●参考文献
1)James, D.B., et al.:TNM悪性腫瘍の分類 第8版 日本語版. 金原出版, 東京, 2017.
